英日 誤訳どんぶり

英語から日本語への誤訳あれこれ 「人の訳見てわが訳直せ」
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誤訳捜査:新シリーズは『人を助けるとはどういうことか』(原題:Helping)です。
■新シリーズ開始の口上

新シリーズの題材として、エドガー・H・シャイン『人を助けるとはどういうことか』(原題:Helping)を取り上げることにしました。普遍的価値のある内容なのに、ところどころ訳が残念だからです。全体から見れば些末なものではありますが、翻訳がまずいために日本語版で意味内容が損なわれている部分は、微力ながら補修しておこうと意を決して立ち上がります(大げさ)。


人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則 Helping: How to Offer, Give, and Receive HelpHelping: How to Offer, Give, and Receive Help



■自称金井ファン

本書が目に留まった直接のきっかけは、表紙に、監訳者として金井壽宏氏の名前が出ていたことです。手に取る前の段階で、金井氏が関わっているなら「はずれ」ではなかろうと感じました。


全部ではありませんが、氏の著書を割合に好んで読んでいますので、私は「金井壽宏ファン」を自称していいかと思います。経営学の分野にあって終始「人」に注目し続けている氏のスタンスが面白いからでしょうか。今さっき本棚を見て数えたら共著も含めて7冊ありました。たとえば『ニューウェーブ・マネジメント―思索する経営』など、15年以上前に出た本ですが今でも十分刺激的だと思います。



■先に原書を読んだ

今回も、先に原書から読むことにしました。原書『Helping』は、実に平易な文章で書かれています。私のような者でも、語彙のほかに特段の不自由は感じませんでした。それでいて内容は大変に深いものがあります。10年、20年経った後も十分に読む価値のある1冊だと思います。


原書を通読して、著者のシャイン氏の人となりが伝わってきた気がしました。「小っちゃいことは気にしない」私のアメリカ人のイメージとは全く異なり、非常に細やかな心遣いができる人だと感じました。たとえば飲み会の幹事とか、さらにはもっと大規模なイベントの企画・段取りだとかも、シャイン氏のような人に任せておけば何も心配いらないでしょうね。



■『人を助けるとはどういうことか』に見られる誤訳の特徴

いささか悪趣味な命名ですが、本書の翻訳を一言で言い表すなら「翻訳的統合失調症」です。ところどころ、一般人には意味不明で理解不能になります。


集計したわけではなくて体感での数値ですが、本書の誤訳の9割以上が、次の2つのパターンのどちらかに当てはまります。



1.語句間の関係の見失い

原文を解釈する上で、文中の節・句同士の関係を把握できていないことが多いです。たとえば、主節と従属節の関係や前置詞句の修飾・被修飾の関係などです。特に、関係代名詞や接続詞などでつながれて、1つの文の中に動詞・助動詞がいくつも出てくると混乱する確率が上がります。どれが主節の動詞か見失っていることもままあります。同系統の比喩を使うなら「英文解釈的見当識障害」とでも言えましょうか。


文末のピリオドに至るまでが長いとき、本書の訳者の方はカンマあるいは接続詞・関係代名詞の前で訳文を分けています。その手法自体は特に問題になるものではありませんが、構成語句の関係を見失ったまま行われると、ときとして意味不明な訳文ができあがることになります。



2.語義の取り違え

多義語の意味を取り違えているケースがままあります。自作の例文でどういうことか説明しますと、
My grandfather used to draw still lifes.
という文があったとして、
「祖父はよく静物画を描いていた」とでも訳すべきところを、
「祖父は依然として人生を引き出すために使った」
としている、といった話です。


上で設定した例は極端なものですが、これに近い「取り違えの複合技」はいくつか見られます。原文のほかにときどき辞書も読めなくなるようです。



その他:アレンジしすぎる

その他、必ずしも誤訳に結びつくものばかりではありませんが、訳文に余計な(と私には思える)アレンジが加えられるケースが散見されました。たとえば、
This is a pen.
という文があったとして、「これはペンだ」で必要十分なところを
「これはペンのはずだ」「ペンだと言えよう」「こうしてペンになる」みたいな格好にしています。


前後の流れも見た上で、原文の意味から外れすぎているものを以後具体例として取り上げることにします。なお上の3つの「アレンジしすぎる」例は、自分の判断基準では許容範囲とします。


ちなみに本書で正しく訳せていない単語の代表の1つが「is」です。特に前半の章で、文型としては「This is a pen.」と同じ型の文を誤訳していることが多かったです。



■つまらないシリーズの予感?

というわけで、このシリーズはこれまで以上につまらないものになりそうです。この後は、上記の2パターンに集約される誤訳を個別具体的に見ていくだけの作業となりそうなので。考察に値するような面白い間違いもほとんどなかったように思います。月に1〜2章のペースで、ちんたらと進めていく予定です。


逆に言えば、上に挙げた2つの症状さえ克服できれば、本書の訳の間違いはほぼなくなるということになりますから、訳者の方には今後研鑽を積んでいただきたいものです。



■訳者について

訳者として名前の出ている金井真弓氏について、訳書巻末に載っていたプロフィール以上のことは存じません。同じ「金井」姓ですが、私が確かめた範囲では壽宏氏と姻戚関係などはなく、同姓なのは単なる偶然のようです。



■ひとこと

本書で述べられていた内容に照らせば、頼まれてもいないのに手を貸すことは支援の原則から全く外れた行為になることは承知しております。訳書の刊行に携わった関係者の方々には多分helpful とはならないでしょうけれども、その他何らかの動機でこのブログにたどり着いた誰かの助けになれれば幸いに思います。

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