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つまらなくてすみません―『天才!』第9章(その1)

第九章「マリータの取引」に入ります。この章の話題の中心は、KIPP というプログラムに基づくニューヨークの公立学校と、そこに通う12歳の少女マリータです。



あいにく間違いとして特別面白いものがないのでまとめていきます。5つあります。(下線はやしろ)



1つめです。SSLANT と表されている礼儀作法の、各頭文字の説明からです。


…、Nod when spoken to(話しかけられたら会釈する)、… (p.285)
…, nod when being spoken to, … (p.251)

意図的にやっているのでしょうか、それとも単なるポカでしょうか、原文のbeing が抜けているうえ、意味もおかしいですね。


私は数日の滞在からしか言えませんが、米国本土の人に会釈された経験はありません。そもそもアメリカは、会釈の文化圏ではないと思います。


正しくはこうでしょう。


話しかけられているときはうなずく


「聞いています」というのを態度で示せ、という話ですね。



2つめです。19世紀後半ごろの事情を述べたくだりです。


当時の教育専門誌には、負担をかけすぎたり頭を使いすぎたりすれば、本来の能力が鈍るのではないか、という心配の声が随所に見られる。 (p.287)
In the educational journals of the day, there were constant worries about overtaxing students or blunting their natural abilities through too much schoolwork. (p.253)


語句の関係が乱れています。「頭を使いすぎたり」の原文の対応部分がいまいち不明ですが、少なくとも下線部は、条件ではなくて心配される結果です。別の言い方をすると、入力ではなくて出力の側です。


正しく読めば、こんなところでしょうか。


当時の教育専門誌には、学校教育が行きすぎれば、子供らへの過大な負担となる、あるいは子供本来の能力を鈍らせると懸念する論調がたえず見られた。



3つめです。


 それでは次に、夏休み中に生徒の読解力に変化が見られたかどうか見てみよう (p.292)
Next, let's see what happens if we look just at how reading scores change during summer vacation. (p.257)

how … change なので、「どう変わっているか」ですね。変化の有無を問うているのではなくて、変化の様態が観点です。こう直しました。


それでは次に、夏休み中に読解力のスコアがどう変化しているかにのみ注目すればどうなるだろうか。


意味的に大差ないですが、私の目には元の訳はずいぶんと雑な訳し方に見えます。



4つめです。


ケイティが、のほほんと夏休みを過ごすたびにアレックスとの差は広がる。 (p.293)
and every summer day she spends puts her further and further behind Alex. (p.259)

細かいですが、過ごす「うちに」ですね。原文が言っているのは、1回の夏休みの中での1日1日のことでしょう。「たびに」だと、夏休みを何回も迎えないといけなくなってしまいます。



5つめです。世界規模でのとある数学テストに関する記述です。テストを受けた生徒に、どれぐらいの問題が授業で習った内容だったかを聞いています。


日本の高校三年生は、九二パーセントが「習った問題だ」と答えた。 (pp.294-295)
For Japanese twelfth graders, the answer was 92 percent. (p.260)

正しくは

「九二パーセントが習った問題だ」と答えた。

ですね。元の訳だと、高校3年生の92パーセントがそう答えた、という意味になってしまいます。ここの92パーセントは、生徒の比率ではなくて問題の比率です。



後半へつづく。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


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