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時間蝿の新種発見!―『天才!』第2章(その1)

第二章「一万時間の法則」に入ります。その前に。



■誤訳の法則

今回『Outliers』と『天才!』を比べて読んできて、強く実感した法則があります。それは


間違った読み方には、必ずどこかに無理がある


ということです。逆から言えば、


どこかに無理があれば、その読み方は間違っている可能性が高い


です。文言として書き出してみると当たり前すぎる話なんですが、確信とともにリアルな感触を得たような気がします。「誤訳センサー」の感度が、わずかでも上がっていればいいのですけど。



■その読み方には無理がある (でも、味がある)

ではあらためて。「ネット界のエジソン」とも呼ばれるビル・ジョイのエピソードからです。今回の誤訳はなかなか味があって、けっこう好きです。(下線はやしろ)



ジョイが博士号の面接試験にのぞんだとき、ハエに関するとりわけ複雑なアルゴリズムを作成し、… (p.43)

During the oral exam for his PhD, he made up a particularly complicated algorithm on the fly … (p.38)


学部、大学院と電子工学を専攻し、ソフトウェアの世界にのめり込んでいたジョイが、なぜハエなんでしょうか。どこか無理がないでしょうか。


on the fly は、「in a hurry and often without preparation (あっという間に、かつ多くの場合、用意なしで)」(Merriam-Webster)というイディオムです。ハエは関係ありません。引用部分の少し前にあった「将来は漠然と生物学者か数学者を夢見ていた」(p.43)という記述に惑わされてしまったのでしょうかね。



こうしました。


博士号試験の口頭試問で、ジョイはとりわけ複雑なアルゴリズムを苦もなく作り上げ、


「面接試験」でも悪くないですが、ここには「口頭試問」の方がよりぴったりとはまる気がしたので、差し替えました。そういう言葉を知らない人のためにわざと言い換えているのかもしれないですけど。



後ろのページにも同じ間違いがありますので、一緒に直しておきます。


[ビル・ジョイは]…ハエに関する複雑なアルゴリズムを作成し、教授たちに畏敬の念を抱かせた。 (p.65)

… that he was able to make up a complicated algorithm on the fly that left his professors in awe. (p.55)

これも、下線部は「複雑なアルゴリズムを苦もなく作り上げてみせ」ってところですね。



ちなみに、巻末の注で出典情報として挙げられていたarchive.salon.com の記述によれば、このときジョイが作ったアルゴリズムは"sorting algorithm" だそうです。それは決して、「たくさんのハエを並べ替えるためのアルゴリズム」ではありませんので、念のため。



■実はお仲間でした

とまあ、エラソーに書いていますが、私も実は、はじめに原書を読んだときは同じようにハエのことだと思っていました。そんなこともあるのかなーぐらいの感覚です。ここが、シリーズの最初に書いた「原文を読んだ時点でこんな意味かなと受け取り、訳でもそれと同じ解釈だったが、日本語で読むとどこか変に感じて、よくよく考えて確かめていくとやはり間違いだった」という箇所の1つです。


外国語の世界で「日本語の常識」が通じないのは当然ですが、それに慣れてしまって、言語と関係ない「常識」までを混同してしまってはいけないんだなーと思ったのでした。両者の見きわめがまた、ちょいと難しいのですが。



今回2箇所で発見したものは、「時間蝿は矢を好む(Time flies like an arrow.)」で有名なあのジカンバエの同類に属する新種だと考えられますので、近く生物学会で発表する予定です。嘘です。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


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