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原著の誤植の見つけ方―『人生に必要な荷物 いらない荷物』

再開します。加古川の図書館で調べものをしていたら、ずいぶん間があいてしまいました。


14「もしも迷子にならなかったら?」冒頭の、E.E.カミングスの詩を引用したエピグラフ部分からです。(下線はやしろ)


「一万の星々に踊り方を教えるより、一羽の鳥から歌い方を習うほうがよいと思う」
――E・E・カミングス (p.264)

I'd rather learn from one bird how to sing,
than teach ten thousand stars how to dance.
--e.e. cummings (p.223)


先に言ってしまいますと、ここの原文には誤植があります。「how to dance」ではなくて、正しくは「how not to dance」です。原文がそうなっているのをそのまま訳したものを「誤訳」としてしまうのは気の毒な面もあるので、「雑録」カテゴリにしました。



それを見つけた過程を書きます。この本の引用部分は、ソローの著書からの訳がめちゃくちゃだったり、それ以前に「ソロー」自体が、ことごとく「ルソー」になっていてちゃんと訳せていなかったりで、まったく信用ができません。そこで比較対照のために「既訳があるか」を調べようと思いました。


それを調べるには引用部分がなんという詩の一節かを知っておいた方が有利だろうと考えて、上の原文のフレーズを入れて検索してみると、その過程で誤植があることが分かりました。


正直に言って、not があるのとないのとで詩の文学的ニュアンスがどう違ってくるのか、私にはまったくピンと来ませんが、ともかく検索結果の多数決で言えばnot to の方が正当なようです。あと、この詩のタイトルは"you shall above all things be glad and young"であることも分かりました。


そして、カミングスの詩のアンソロジーが日本語訳で出版されていることも分かったので、そこにこの詩が入っていないか、図書館に探しに行きましたら、本も詩も首尾よく見つかりました。


以下、詩集『新詩集』より「どんなものよりも」です(谷川昇訳)。ちなみに、オリジナルが収められた詩集のアメリカでの刊行は1938年です。



数万個の星たちにどうやって踊らないかを教えるより
ぼくはむしろ一羽の鳥から
どのように歌うかをおぼえたいんだ
(『カミングス詩集』(思潮社、1997年) より)


美的感覚は人それぞれでしょうが、少なくともこの箇所に関しては、最初に引用したものよりもこちらの方がはるかに格調高く、美しい訳だと私は思います。存在する可能性があれば、先人の残した訳を探してみるのが大事だなと思ったひとこまでした。



■知りようがなかった誤植のパターン

上のケースで誤植を見つけられたのは、たまたま詩の引用で「正しいテキスト」があったためでした。関連して、このブログでの経験について書きます。


以前、マッカーサーの演説を取り上げた記事に対し、literal line は別のテキストではlittoral line となっている、との指摘をいただいたことがありました(マッカーサー「老兵は死なず」--(その5))。当時の私は、literal と発音が同じlittoral という単語があることすら知りませんでした。「文字どおりの線」というのもなくはない感じで特段違和感はなかったのですが、言われてみれば「海岸線」の方がはるかにぴったりきます。


そこで、引用したテキストが載っていたアメリカのサイトにこれをメールで知らせたところ、あっという間に訂正されました。訂正後のページにクレジットまで付けてくれたのは想定外でしたが(恥ずかしい…)。ともかく思ったのは、アメリカ人の感覚からすれば、一も二もなく「あっ、そりゃ違うわ」となるような明白な間違いだったんだなということです。



■結局はセンス?

そのような少ない経験もふまえていくと、原著の誤植を見つけるには、丁寧に読んでいく姿勢を大前提として、語彙、語法、一般常識など、そういうものを全部ひっくるめた意味での「センス」を地道に培って、「誤植センサー」の精度を高めていくしかないのでしょう。それでもすべての誤植を見つけだせるかは未知数ですが。



大仰なタイトルを付けたわりに面白くない結論ですけど、だいたいそんなとこかなという感触はしています。



次回より、『人生に必要な荷物 いらない荷物』のエピローグに入ります。


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