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high-level ですが、何か?―『明日は誰のものか』謝辞(その3)

巻頭の著者クリステンセン氏による「謝辞」の、2人の共著者について書かれたパラグラフからです。(下線はやしろ)



その一方で二人は、それを上回る機敏な頭の回転を駆使して、ヘリコプターのように縦横無尽に動きながら、高度な概念を探求することと、それらを使いこなすための実践的なツールを開発することの両方をこなしてくれた。 (p.11)

, they have demonstrated greater intellectual agility as they helicoptered up and down between exploring high-level concepts and developing practical tools for using them. (p.ix)


high-level に「高度な」という語義もあるにはありますが、ここでよりふさわしいのは「おおよその」とか「概略的な」じゃないかと思います。こうしました。


一方二人は、概略の研究構想から実践で利用するツールの開発に至るまで、ヘリコプターのように上へ下へと動き回り、素晴らしい頭の回転の速さをみせてくれた。



ただ、concept というのはだいたいがhigh-level なものなので、原文の表現自体がちょっと「頭が頭痛」的な、冗長な言い方のようにも思えます。しかし検索のヒット件数をみるにさほど特殊な言い方でもなさそうです。


ここは要するに、二人は(私と違って)「理論編」でも「実践編」でも活躍してくれた、と言いたいわけですね。そのさまをクリステンセン氏はヘリコプターになぞらえて表現しているわけです。up and down というのも、両方の作業の(概念上の)位置関係を示しています。


以下、知っていることをひけらかしたいだけの解説です。


■要注意語:high-level

high-level が「おおよその」という意味になることがある。「その発想はなかったわ」の使い方を、私は会社員時代にアメリカ人からとあるレクチャーを受けたときに知りました。


レクチャーの開始早々、その方は「まずhigh-level explanation から始めます」と言いました。アジェンダにもそう書いてありました。「高度な説明」があるのかと思って、えーっいきなり〜?となった私たちでしたが、すぐに勘違いであることが分かりました。


high-level explanation というのは「大まかな解説」「概要説明」ということだったのです。ぽかんとしている私たちに「高いところからだとあまり細かいとこは見えずに、全体像が見えるでしょ だから"ハイレベル"から始めるんだよ」とか、そんな風に補足してくれたような記憶があります。「ハイレベル」と聞けばついつい「上級、高級、高度」のようなイメージが浮かびますが、英語じゃhigh-level をそんな風にも使うのかと、印象に残ったのでよく覚えています。 ※ただし詳細の記憶はあいまいなので、このエピソードは意図せず脚色されている可能性があります。私の記憶力はあまりハイレベルではありません。


このようなhigh-level の用法は、手元の英和、英英辞典、あるいはオンラインの英英辞典を見てもなぜかほとんど載っていません。そんな中でほぼ唯一言及があり、しかも桁違いに説明の充実していたのが、意外にも(そうでもないか)Wikipedia でした。まとめとして、見出し項目High and low level (description) からの抜粋を並べます。


A high level description is one that describes "top level" goals, overall systemic features, is more abstracted, and is typically more concerned with the system as a whole, and its goals.(ハイレベルの記述というのは、「最高位の」目標や、全体の体系的なはたらきを記述し、より抽象的であり、そして通常、システムの全体やその目標に関係の深いものである。)

In business, corporate strategy is a high level description, a list of who does what jobs is a low level description.(ビジネスの場合、企業戦略がハイレベルの記述で、誰が何をやるかの一覧がローレベルの記述である。)

"Wikipedia is an encyclopedia" is a high level description compared to "Wikipedia is a collection of textual articles on many topics". The former reflects a higher level view of organization, purpose, concept and structure, but does not explain what Wikipedia physically is. The latter is more detailed as to what exactly Wikipedia contains and how it's made up, but doesn't explain what its overall purpose and goals are. These are typical features of high and low level descriptions.(「ウィキペデイアは百科事典である」は、「ウィキペディアは多様な事柄についてのテキスト記事の集合体である」と比べてハイレベルな記述である。前者はより高い視野から組織、目的、概念、構造をとらえているが、ウィキペディアが具体的に何なのかは説明していない。後者は実際ウィキペディアに何があるのか、それがどう成り立っているかには詳しいが、ウィキペディア全体の目的や目標を説明してはいない。以上がハイレベルとローレベルの通常のはたらきである。)


最後のWikipedia に関する例文で、そこまでハイとローの違いが際だっているようにも思えませんが、それはさておき。ともかくhigh-level が出てきたときには、ひときわ注意しないといけません。


日本語訳:明日は誰のものか イノベーションの最終解 原文:Seeing What's Next: Using the Theories of Innovation to Predict Industry Change (Amazon.co.jp)


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