英日 誤訳どんぶり

英語から日本語への誤訳あれこれ 「人の訳見てわが訳直せ」
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
翻訳者もわかっていない―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 9(その4)

原則2のコツ5から、2つです。(下線はやしろ)


1つめです。


著述家としての私の経験から、最もいい例をあげよう。それは私が書いたものについて、一般的なフィードバックを求めるときだ。私は一般の反応を手に入れて理解し、修正するのだが、支援者はさらにいくつか注釈をつけ、一つひとつのポイントをすべて見せて説明したがる。 (p.237)

「修正するのだが、」までの原文です。


The best example from my own experience as an author is when I ask for general feedback on something I have written. I get the general reaction, understand it, and am ready to fix it, … (p.149)

後ろを読むと、general は「一般的」よりも「全般的」「全体的」とした方がいいかと思います。理由は次のとおりです。


  • ここで「フィードバック」「反応」するのは1人ないし限られた少数であること
  • 「支援者」は私(=シャイン氏)のニーズに反して細かい点へ言及したがっていること


2つめ、今回のメインです。上の続きです。


支援者がわかっていないのは、私はすでに全体を細分化する考察をしたため、そんなことをしても微小の部分を分析するだけだということだ。 (p.237)

意味不明です。原文です。


What the helper does not know is that I may have already had the insight to cut the whole section that is being micro-analyzed. (p.149)

cut の取り違えと、that の品詞の見失いです。cut はそのまま日本語にもなっている「カット」の意味で、that はthe whole section を先行詞とする関係代名詞です。よって、正しくはこんなところです。


支援者がわかっていないのは、今細かく分析しているそのセクションを、私はすでに丸ごと削除しようと判断した場合もあるということだ。



フィードバックをもらって「このくだりは必要ないな」と丸ごとカットすることにしたのに、依然としてそのくだりに関してあーだこーだ言ってくるから、“支援”がまったく役に立っていない、という話です。



日本語訳:人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則 原文:Helping: How to Offer, Give, and Receive Help (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 08:25 | comments(0) | trackbacks(0) |
1つでなく2つの話―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 3(その14)

「支援者が陥りやすい六つの罠」4つめの「支援と安心感を与えること」からです。(下線はやしろ)


支援を与えて、クライアントの地位の低さを助長することが不適切な場合もある。 (p.080)
Sometimes it may be inappropriate to give support and may reinforce the client's subordinate status. (p.42)

それは常に不適切な気がします。正しくは、こうですね。


ときには支援を与えることが不適切であり、クライアントの地位の低さを助長する場合もある。


後ろの下線部にもmay が付いていますから、reinforce も形式主語のit につながります。つまり、述語動詞はmay be inappropriate とmay reinforce の2つあります。で、両方とも真の主語はto give support という、少しややこしい構文です。



日本語訳:人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則 原文:Helping: How to Offer, Give, and Receive Help (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 08:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
オレ流にライバルは不要―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その16)

語義を取り違えて意味不明になっている実例です。流れを見るために1つ前の文から引用します。(下線はやしろ)


たとえば、依存心の強い人は、他人がリーダーシップをとっている人間関係を公正だと思うかもしれない。一方、依存することに否定的な人は、自分のライバルが認められ、尊敬されるような場合に限り公正だと考えるだろう。 (p.056)

意味不明です。他に依存しない「オレ流」に、ライバルが必要なのでしょうか。


「一方」以降の原文です。

…, while a counter-dependent person might consider it equitable only if his or her opposition was acknowledged and respected. (p.26)

元の訳はopposition を人の意味に取っていますが、ここでは「反対・対立すること」の意です。「オレ流」に一定の理解が得られている状況に満足を感じる、という話ですね。具体性を持たせて、修正訳は「反対意見」とします。



日本語訳:人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則 原文:Helping: How to Offer, Give, and Receive Help (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 10:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
意味不明なことを述べており―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 1(その6)

引き続き「公式の支援と非公式の支援」から、前回の直後の文です。シリーズ冒頭で、本書の訳の特徴を、趣味悪く「翻訳的統合失調症」と称しましたが、それを感じる一例です。(下線はやしろ)


支援の分析は、大半がこうした公式のレベルのものを扱っている。だが、非公式の支援や準公式の支援のほうがはるかに一般的だし、仮に支援が効果的に与えられたり受け入れられたりしなくても、より優れた結果につながる場合が多い。 (pp.030-031)

一般の感覚では理解しにくく、同意しがたい話です。「だが、」以降の原文です。


…, yet informal and semi-informal help are far more common and often have greater consequences if not given or received effectively. (p.8)

greater の取り違え → if の曲解 という「誤訳の連鎖」を起こして、理解不能な訳文となったのでしょうか。



■greater の取り違え

上の原文のgreater を「より優れた」とするのは語義の取り違えです。コムズカシク言うと、このgreater はベクトルではなくスカラーと取るべきでしょう。「程度がよりはなはだしい」ことだけを意味しており、優劣という価値判断を含んだ“方向性”は含まれていません。



■if の曲解

前後の意味関係から、because 節を「であるからといって」と逆接のような格好で訳すことがありますが、ここのif 以降もその類だと思ってしまったのでしょうか。しかし上のif 部は、素直に「もし〜なら」と読んで何の問題もありません。



■これが正解

原文どおりに読んで、一般の感覚にも合うように訳し直すと、こんなところでしょうか。「仮に」以降のみです。


仮に支援が効果的に与えられたり受け入れられたりしなければ、より重大な結果につながる場合が多い。



■さらにひどい曲解

元の訳文がけっこうなとんちんかんぶりだったので、もしかするとgreater consequences の一例を身をもって示したかったのかしらん、と妄想してしまいました。そんなわけないか。



日本語訳:人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則 原文:Helping: How to Offer, Give, and Receive Help (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 10:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
「素晴らしき勘違い」の勘違い4―『天才!』第8章(その8)

「素晴らしき勘違い」セクションの訳のひどさを見てきたミニシリーズ、最終回です。最後もまるで体操競技のフィニッシュのようにキマっています。



セクションの末尾を引用します。今回はここが検討範囲です。


 そして彼女が理解する。
「わかった! y軸に大きな数を打ち込むより、結局はゼロで割ることが大事なのね。y軸に大きな数を入れてもだめで、ゼロで割ればいいのね!」。レニーの顔が輝く。
「垂直な線の傾きはゼロで割ればいい――そして、それは無限大である。ああ。なるほど。それでわかった。垂直な線の傾きは、xにゼロを入れて無限大になる。ゼロで割ることは、数学では許されていなかったけど。ああ。そういうことなのね。私、絶対に忘れないわ!」 (p.277)

彼女が理解したことを、読む側はまったく理解できません。読解力の問題ではありません。訳がめちゃくちゃだからです。おかしな箇所を順に原文と対照して見ていきます。(下線はやしろ)



1つめです。


y軸に大きな数を打ち込むより、結局はゼロで割ることが大事なのね。 (p.277)
It's any number up, and zero over. (p.244)

でたらめです。


前回も述べたように、ここのup はy 軸方向の増加、over はx 軸方向の増加を意味します。本当はこういう意味です。


縦にいくら増えても、横には増えないってことね。



2つめです。


y軸に大きな数を入れてもだめで、ゼロで割ればいいのね!」。 (p.277)
It's any number divided by zero!" (p.244)

下線部が嘘です。「それはdivided by zero な any number である」ですから、こうですね。


何でもいいからゼロで割った数字ってことね!


ここのIt は入力する座標、またはそこから算出される線の傾きと取りました。



3つめです。


「垂直な線の傾きはゼロで割ればいい――そして、それは無限大である。 (p.277)

でたらめなうえ、意味不明です。原文です。


"A vertical line is anything divided by zero--and that's an undefined number. (p.244)

主語は傾きではなくてline ですね。少し補足してこうしました。


垂直な線を引くための値は何でもいいからゼロで割った数字で、その数は不定である。



4つめです。


垂直な線の傾きは、xにゼロを入れて無限大になるゼロで割ることは、数学では許されていなかったけど。 (p.277)
The slope of a vertical line is undefined. (p.244)

間違ったあげく、余計な文を足す結果になっています。シンプルにこうすればいいのにと思います。


垂直な線の傾きは、定義できない。


付け足すこと自体も間違いですが、付け足し内容もいまいちです。意地悪な言い方をすると、発散して定まらないだけで、数学でゼロの割り算が許されていないわけではありません。「手に負えない人は扱わない方が賢明」という意味では、間違っていませんが。



■まとめ

修正前後の文を再掲します。元の訳です。


 そして彼女が理解する。
「わかった! y軸に大きな数を打ち込むより、結局はゼロで割ることが大事なのね。y軸に大きな数を入れてもだめで、ゼロで割ればいいのね!」。レニーの顔が輝く。
「垂直な線の傾きはゼロで割ればいい――そして、それは無限大である。ああ。なるほど。それでわかった。垂直な線の傾きは、xにゼロを入れて無限大になる。ゼロで割ることは、数学では許されていなかったけど。ああ。そういうことなのね。私、絶対に忘れないわ!」 (p.277)

以下、間違いを直して差し替えたものです。


 そして彼女が理解する。
「わかった! 縦にいくら増えても、横には増えないってことね。何でもいいからゼロで割った数字ってことね!」 レニーの顔が輝く。
「垂直な線を引くための値は何でもいいからゼロで割った数字で、その数は不定である。ああ。なるほど。それでわかった。垂直な線の傾きは、定義できない。ああ。そういうことなのね。私、絶対に忘れないわ!」


これで、理解できたレニーの喜びを少しは共感できるようになったかと思います。



このセクションに限っては、訳者の方は書いてあることが全然理解できなかったように思われます。決して「英語だから」ではなくて。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 07:43 | comments(0) | trackbacks(0) |
「素晴らしき勘違い」の勘違い2―『天才!』第8章(その6)

「素晴らしき勘違い」セクションの訳を見ていくミニシリーズの2回目です。「数字に弱い」が本書の訳の特徴ですが、それが運悪く?数学にからむ話にぶつかって、悲惨なことになっています。



入力された座標を元に2次元平面上に直線が引かれるソフトを使って、レニーがy 軸に重なる直線を引こうとしている場面です。今回の検討範囲全体を、前後の文と合わせて挙げます。


高校時代の数学を覚えている人には、それが不可能だとわかる。垂直な線は数学的に定義できない傾きだ。入力するyの値は無限大である。すなわち、y軸のどんな数字もゼロではじまり、果てのない大きな数まで続く。一方でx軸の傾きはゼロだ。無限大をゼロで割ったものは数字ではない。 (p.273)


前から順に分けていきます。1つめです。(下線はやしろ)


垂直な線は数学的に定義できない傾きだ。 (p.273)
A vertical line has an undefined slope. (p.240)

線は傾きだとなっていて平仄の合っていない、いわゆる悪訳の類です。単体なら目をつぶりますが、ついでなのでこう直します。


垂直な線なら傾きは定義できない。



2つめです。


入力するyの値は無限大である。すなわち、y軸のどんな数字もゼロではじまり、果てのない大きな数まで続く。 (p.273)
Its rise is infinite: any number on the y axis starting at zero and going on forever. (pp.240-241)

意味不明です。


念のため申し添えますと、rise とはy 軸方向(縦方向)の増分を指します。このケースでは原点から線が引かれますので、「入力するyの値」と同じことになりますが。


infinite とコロン以下のany number との関係の読み方が難しいですが、こうしました。


y軸側の増分は無限大である。ゼロから果てのない大きな数まで、y軸上のあらゆる数字が入る。



starting at zero と、数の起点がゼロになっているのは、もっぱら第1象限(x, y とも正の値)の側のみに注目しているためと取りました。この一次直線の描画ソフトで、入力値の仕様がどうなっているか不明確なので、やや強引な解釈ですが。



3つめです。


一方でx軸の傾きはゼロだ。 (p.273)
It's run on the x axis, meanwhile, is zero. (p.241)

これも意味不明です。ここのrun は、x 軸方向(横方向)の増分の意味です。傾きではありません。なお原文の方ですが、見て分かるとおりIt's は誤植です。正しくはIts ですね。


こう直しました。


一方でx軸側の増分はゼロだ。



■まとめ

修正前後の文を再掲します。手を入れたところのみです。


垂直な線は数学的に定義できない傾きだ。入力するyの値は無限大である。すなわち、y軸のどんな数字もゼロではじまり、果てのない大きな数まで続く。一方でx軸の傾きはゼロだ。 (p.273)


垂直な線なら傾きは定義できない。y軸側の増分は無限大である。ゼロから果てのない大きな数まで、y軸上のあらゆる数字が入る。一方でx軸側の増分はゼロだ。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)



| 意味の通じない日本語 | 07:27 | comments(0) | trackbacks(0) |
無理がある好例―『天才!』第7章(その9)

今回は、「間違った読み方には、必ずどこかに無理がある」という「誤訳の法則」を示す好例かと思います。前々回と同じく、パイロットであるラトワッテの発言からです。(下線はやしろ)



思い出すのは、ニューヨーク行きのブリティッシュ・エアウェイズ便に乗ったときのことだ。そのフライトにはニューヨーク航空管制の管制官がたくさん乗っていた。 (p.229)
I remember a British Airways flight was going into New York. They were being stuffed around by New York Air Traffic Control. (p.201)

私も最初は、そのように読んでいました。しかし、後ろの記述とつなげると、どこか収まりが悪く感じます。こう続きます。


すると英国人のパイロットが言ったんだ。『君たちはヒースローに行って、飛行機をうまくコントロールする方法を学んだほうがいい』って。まったくそのとおりだ。 (p.229)


■常識で考えて変

常識的に考えれば、ニューヨーク行きのブリティッシュ・エアウェイズ(以下、BA)の便は、英国国内から飛んでいるはずです。そこにニューヨークの「管制官がたくさん乗っていた」とすると、腑に落ちない点がたくさんあります。


  • 米国の公務員である管制官が、なぜわざわざ英国の航空会社であるBAに乗るのか? 米国のエアラインを使うと何か都合が悪いのか?
  • そもそも、英国に何の用があって団体で出かけていたのか?
  • このフライトのルートが英国→(米国内の経由地)→ニューヨークで、管制官らは国内部分の移動に利用した、という可能性もある。しかし、そうであるならなおさら、なぜわざわざBAなのか?
  • もし本当に英国で公務があったとすれば、その場がヒースロー(=ロンドンの空港)であったかはともかく、何かを学んできたということではないのか?


■構文を考えても変

英語的に見ても、腑に落ちない点があります。下線部の原文を一部単語を残したまま直訳すれば「彼らはニューヨークのATCによってstuff around されていた」です。以下、New York Air Traffic Control は「NY ATC」と表記します。


  • being が付いているということは、動作が進行中であることを表します。「乗っていた」であれば、stuff という動作は完了していますから単にThey were stuffed around. でよく、being は必要ありません。
  • また、by は動作主を表します。ですから、「飛行機に管制官を乗せる」という意味であるならば、まるで第2次大戦中にナチスがユダヤ人を貨車に押し込んで収容所まで連行したように、NY ATC が管制官を追い立ててBA便の飛行機に乗せていく、というイメージが浮かびます。まったくナンセンスです。


■stuff の文型を確認します

あらためて書きますと、stuff が動詞の場合、「詰める」という意味になります。動詞stuff には2つの文型があります。OALD にあった例文をアレンジしたものを以下に挙げます。


  1. She stuffed 500 envelopes with leaflets.(彼女は500枚の封筒にリーフレットを詰めた)
  2. She stuffed 500 leaflets into envelopes.(彼女は500部のリーフレットを封筒に(1部ずつ)詰めた)

一般化すると、こうですね。


  1. stuff A with B ⇒ A=入れ物、B=中身
  2. stuff A in/into/under etc. B ⇒ A=中身、B=入れ物

「入れ物」「中身」の両方とも、目的語(A)の位置に来るパターンがあります。ここがポイントです。



■これが正解

以上をふまえ、考えやすくするために原文を能動態に変えた文で検討します。


  • New York Air Traffic Control was stuffing them around.

元の訳はThey(=管制官、ここではthem)を「中身」と取っています。上の2.のパターンですね。しかし、それでは意味が通じませんでした。1.の「入れ物」と取ってみると、どうなるでしょう。


するとこの文は、NY ATC が、管制官という「入れ物」に詰めていた。という意味になります。この文に「中身」は書いてありません。管制官に何かを詰めていた、という話です。


「ATCという組織が配下の管制官に詰める中身」といったら、常識で考えれば想像はつきますし、後ろの文にもヒントがあります。原文に戻って正しく読み直すならば、こんなところでしょう。


管制官たちは、ニューヨーク航空管制センターによる研修をみっちりと受けているところだった。



これで筋が通りました。なお、NY ATC が組織名であることが明確に分かるように「センター」を足しました。



■こういう状況

それがどんな形態・内容かまでは私には想像がつきませんけれども、ともかくBA便のパイロットは、ニューヨークへ向かう途中、管制との交信中に管制官らがNY ATC によるトレーニングを受けているところだ、ということを知った。そういう状況でしょう。


つまりここでの英国人パイロットのセリフは「ニューヨークでそんなことをするぐらいなら、ヒースローに行って学んだら?」という、なかなか皮肉の利いたものだったわけです。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 06:13 | comments(0) | trackbacks(0) |
桁違いの翻訳―『天才!』第5章(その7)

企業買収関連業務がしだいに脚光を浴びるようになってきたという趣旨の記述からです。(下線はやしろ)



一九七〇年代半ばから八〇年代末にかけて、ウォールストリートでM&Aのために使われた総額は、毎年二〇〇〇パーセントずつ増大し、ピーク時には約二五〇〇億ドルに達した。 (p.134)


本当でしょうか。検算してみましょう。


「毎年2000パーセントずつ」ということは、20倍です。書いてあるとおり毎年20倍になるなら、1979年を1ドルとしても、1年後の80年は20ドル、81年は400ドル…となり、10年後の89年には(20の10乗)ドル→(2×10)の10乗→(2の10乗)×(10の10乗)→1024×100億→10兆2400億ドルとなります。2500億ドルとは2桁違っていますから、昔のクイズ番組だったらロストボールでニアピン賞1本没収です。


原文です。


From the mid-1970s to the end of the 1980s, the amount of money involved in mergers and acquisitions every year on Wall Street increased 2,000 percent, peaking at almost a quarter of a trillion dollars. (p.128)

increased の主語は、the amount of money … every year … ですから、比較されているのは、起点(1970年代半ば)と終点(80年代末)の年間M&A 総額ですね。ですからこんなところでしょう。


一九七〇年代半ばから八〇年代末にかけて、ウォールストリートでM&Aに使われた年間総額は二〇〇〇パーセント増大し、約二五〇〇億ドルに上った。



シリーズの最初に、翻訳と関係なしに数や量の扱いが不得意なのではという趣旨のことを書いたのは、こういうところからです。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 06:19 | comments(0) | trackbacks(0) |
美しく擦り切れる?―『天才!』第5章(その3)

ジョー・フロムのクラスメイトだった、アレグザンダー・ビッケルの話題からです。(下線はやしろ)



ビッケルが名門法律事務所に就職の面接に行ったときの、事務所の様子を描いたくだりです。


濃い色の羽目板。美しく擦り切れたペルシャ絨毯。 (p.139)

a dark-paneled room, an artfully frayed Persian carpet, (p.121)


■これって撞着語法?

「誤訳センサー」が激しく反応しました。「美しく擦り切れた」とは、正反対の意味をもった撞着語と言っていいでしょう。たとえば職人さんの使い込まれた道具であれば、それを美しいとするのはまだなんとなく分かる気がします。しかし、すり切れた絨毯を「美しい」と称するのは、どこか腑に落ちません。あえてそのような言葉を並べる修辞(撞着語法)もありますが、ここでその必然性はまったく感じません。


確かに、fray を英和辞典で見ると「擦り切れる」です。英英辞典を引いてみました。「unravel or become worn at the edge (端がほつれる、または擦り減る)」(COD)です。私の「誤訳センサー」の誤動作でしょうか。しかし「間違った読み方には必ずどこかに無理がある」という法則に照らせば、どこかがおかしいはずです。もう少し粘って考えてみました。


絨毯が「美しくfray した」とは、一体どういう状態なのかと考えていると、2、3分経ってひらめきました。答えは「使っていてほつれたのではなく、最初からほつれている」です。つまり、絨毯の端がこんな具合になっている、ということです。
ペルシャ絨毯の端
(画像はicg.irjp.jp より)


それが分かれば、この部分を日本語でどう呼ぶのかの確認です。上記サイトを含め、ペルシャ絨毯について書かれた日本語サイトをいくつか見てみますと、フリンジ(房)という説明を多く見かけました。それが一般的な呼称のようです。


以上をふまえ、こう直しました。


手の込んだ房飾りが施されたペルシャ絨毯。



artfully の訳も、美しさよりは「巧みな」というニュアンスを前面に出す方が適切に思いましたので変えました。



■実物はきっとこんな感じ

「最高級品」と称されていたペルシャ絨毯の画像がありました。
最高級ペルシャ絨毯
(www.maruyakagu.jp より)


フリンジ部分の仕上がり具合がよく分かるかと思います(ついでに国内価格も)。絨毯についてはまったくの素人ですが、言われてみれば違うような気がします。



いずれにしても、読み手を惑わせるようなおかしな訳を残したまま出版するのはぜひとも慎んでもらいたく、関係諸氏には自粛を要請します。と、最後は撞着語法でしめくくってみました。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 06:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
どんな悪夢か―『天才!』第2章(その5)

コンピュータセンターに入りびたっていたビル・ジョイの大学時代の話からです。(下線はやしろ)



同じように出入りしていた連中は、授業に出るのを忘れるどころか、大学に籍があることさえ忘れてる、なんて悪夢をしょっちゅう見ていたな」 (p.53)

All of us down there had this recurring nightmare of forgetting to show up for class at all, of not even realizing we were enrolled. (p.45)


enroll に「入学する」という意味もあるのでそういう可能性もありますが、もう一段低いレベルの「履修登録したことさえ忘れている」とした方が、筋が通りやすいかと思います。つまり「覚えていないのはclass へのenroll」という解釈です。


理由1。プログラミングに夢中になるあまり「大学に籍があることを忘れる」より、「履修登録していることを忘れる」方が、私にとっては自然で共感できます。コンピュータセンターも大学キャンパスの中にあったわけですし、一足飛びにそこまで分からなくなるもんかなぁという疑問はあります。


理由2。「履修登録をしたことを忘れる」方が、それが「悪夢」であることの意味がすんなりイメージしやすいです。登録を覚えていない→出席しない→単位が取れない→進級できない→卒業できない、といったところでしょうか。一方、「大学に籍があることを忘れる」ことが具体的にどんな悪夢になるのかは、今ひとつピンと来ません。仮に同じロジックで「進級できない→卒業できない」に至るにしても、スタート時点での隔たりを感じますし、そもそも大学生であることを忘れている者にとって、進級やら卒業やらが心配の種になるというのは矛盾しています。



■余談:2つの武勇伝

それで思い出した余談です。大学時代の先輩の話ですが、その方はあることに夢中になるあまり、必須科目の試験を受けに行けずに留年しました。また、別の人の話ですが、同じあることを入試前夜までやっていて、こちらは試験は受けたものの落ちたそうです。2人が共に夢中になっていたあることとは、「ドラクエ」です。



日本語訳:天才! 成功する人々の法則 原文:Outliers (Amazon.co.jp)


| 意味の通じない日本語 | 06:38 | comments(0) | trackbacks(0) |
CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< November 2017 >>
PROFILE/CONTACT
CATEGORIES
これまでのシリーズ
※それぞれ、第1回目の記事へのリンクです。
シャイン『人を助けるとはどういうことか』(全129回)
Chapter 9(7)|Chapter 8(17)|Chapter 7(17)|Chapter 6(8)|Chapter 5(11)|Chapter 4(17)|Chapter 3(18)|Chapter 2(19)|Chapter 1(8)|まえがき他(1+6)
グラッドウェル『天才!』(全99回)
エピローグ他(6+1)|第九章(3)|第八章(10)|第七章(13)|第六章(7)|第五章(13)|第四章(10)|第三章(4)|第二章(10)|第一章(19)|プロローグ他(1+2)
ライダー/サピーロ『人生に必要な荷物 いらない荷物』(全99回)
エピローグ(11)|第七章(10)|第六章(10)|第五章(9)|第四章(20)|第三章(10)|第二章(8)|第一章(16)|プロローグ他(1+1+3)
クリステンセン『明日は誰のものか』
第1章(16)|用語集(4)|序章(18)|謝辞(8)
ワインバーグ『コンサルタントの秘密』(全90回)
§11-14(20)|§7-10(39)|§4-6(21)|§1-3(10)
マッカーサー「老兵は死なず」(全20回)
学生のためのベンチャー指南(全10回)
オープンソースのライセンスは時代遅れだ(全8回)
画面解像度とページレイアウト(全4回)
プロジェクト計画策定(全3回)
ユーザテストはエンターテイメントではない(全5回)
やさしい機能仕様 パート1(全8回)
ARCHIVES
RECENT COMMENT
  • ワインバーグ『コンサルタントの秘密』§1-3--(その9)
    KAZ (02/15)
  • ワインバーグ『コンサルタントの秘密』§1-3--(その1)
    (05/10)
  • 大韓航空801便―『天才!』第7章(その1)
    永江聡 (04/26)
  • イディオムの幻影―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その15)
    やしろ (04/25)
  • イディオムの幻影―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その15)
    あしるぎ (04/25)
  • トイレにスーパーマン―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その12)
    やしろ (04/24)
  • トイレにスーパーマン―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その12)
    あしるぎ (04/24)
  • eventually はcall にかかる―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その10)
    やしろ (04/23)
  • eventually はcall にかかる―『人を助けるとはどういうことか』Chapter 2(その10)
    あしるぎ (04/23)
  • ワインバーグ『コンサルタントの秘密』§1-3--(その4)
    raycy (03/28)
RECENT TRACKBACK
おことわり
  • トラックバックする際は、送信元に該当記事へのリンクを置いてください。
SELECTED ENTRIES
LINKS
RECOMMEND
RECOMMEND
RECOMMEND
コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学
コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学 (JUGEMレビュー »)
ジェラルド・M・ワインバーグ,G.M.ワインバーグ
モバイル
qrcode